天才じゃないギフテッドのブログ

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ギフテッドの「2E」とは?ギフテッドとはどう違う?

ギフテッド関連のニュースについての感想をSNSなどで眺めていると未だにギフテッドを発達障害の一部だと誤解している人が散見されます。ギフテッドという特性は発達障害とは別ものですが、日本ではギフテッド支援を障害者の支援機関が担っていることが多く、そういったところからの連想でギフテッドも障害であるという誤った認識が生まれているような気もします。

haruaki.shunjusha.co.jp

そのあたりの事情ついては上の記事に詳しく解説されているため興味のある方はぜひ読んでみてほしいのですが、ギフテッドと発達障害についての話がややこしいのは発達障害を持ったギフテッドも存在するということにあります。ギフテッドが必ず発達障害を持っているわけではありませんが、発達障害と無縁なわけでもないのです。

今回はそんな発達障害とギフテッド特性の両方を併せ持った人たち「2E」についての簡単な解説やありがちな疑問について簡単にまとめてみます。

目次

「2E」ってなに?

まず、上でも書いたように2E(Twice Exceptional: 二重に例外的)とはギフテッド特性と障害を併せ持っている人のことを指します。「障害」の部分は専門家によって定義が微妙に異なる*1のですが、この記事では主にADHD学習障害(LD)、自閉症スペクトラムASDを念頭に置いています。

そもそもギフテッドが発達障害じゃないの?

ネット上ではギフテッドを発達障害の一種のように考えている意見をたまに見かけますが、ギフテッドという特性は障害ではありません。例えばアメリカの議会法No Child Left Behind Actではギフテッドは「高い成果を出せる能力・素質を持っていること」と定義されており、発達障害はその要件に入っていません。

「『ギフテッド』という用語は、学生、児童、または若者に関して使用される場合、知的、創造的、芸術的、またはリーダーシップの能力などの分野で高い達成能力の証拠を示す学生、児童、または若者を意味します

"The term ‘gifted and talented,” when used with respect to students, children, or youth, means students, children, or youth who give evidence of high achievement capability in such areas as intellectual, creative, artistic, or leadership capacity, or in specific academic fields

https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-107publ110/pdf/PLAW-107publ110.pdf

また、上越教育大学大学院の角谷准教授はギフテッドと発達障害の違いについて以下の記事でまとめています。

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このようにギフテッドという特性は障害ではありませんが、ギフテッドと障害の両方を併せ持っている人がたまに居て、その人のことを2E(Twice Exceptional:2重に例外的)と呼びます。あえて図にすると以下のような感じです。2つの円が重なっている部分が2Eです。ギフテッドであるだけでもかなり例外的な存在ですが、さらに発達障害も併せ持っているという意味で「2重に例外的」であると定義されています。

2Eの何が問題なのか?

障害があってもギフテッドなんだからいいじゃないか、と思われる方もいるかもしれませんが、2Eである場合はギフテッドであることもしくは障害を持っていることに気づきにくいという問題があります。*2

大きく分けて3通りありますが、まず1つは障害の影響でそもそもギフテッドであると認識してもらえなくなる場合です。例えば学習障害で読み書きが苦手だったりすると本来の知能と比べて学校の成績やIQテストのスコアが低くなってしまい、ギフテッドと認識されづらくなることが考えられます。

2つ目はその逆で、ギフテッドの能力が障害を覆い隠してしまう場合です。例えば学習障害で字を読むのが苦手であっても、先生の説明を耳で聞いてそれを持ち前の知能でうまくカバーしてしまい、本来支援が必要なはずの読字障害に気づくのが遅れてしまうことが考えられます。

3つ目はギフテッドにも障害にも気づかないパターンです。障害の種類や程度によってはギフテッドとしての能力と障害が釣り合うような具合になってしまい、学校の成績やIQテストで特に優れているわけでも劣っているわけでもないような結果が出てしまう場合があります。

また見分け方の問題以外にも本人の健康上の問題が発生することもあります。詳しくは2Eギフテッドの特徴の項目で紹介しますが、自尊心の低下や劣等感、自分の考えをうまく表現できないことに対するフラストレーションが溜まったりすることもあります。 

2Eの割合はどのくらいなのか?

研究によって数値は異なりますが、以下の研究によると障害のある子どものうち約9.1%がギフテッドの可能性があると報告されています。

これらの児童(訳注:IQテストで120以上を獲得した児童のこと)は、アメリカ国内で障害のある児童の約9.1%に相当し、才能がある、または学力が高いと認定される可能性のある児童である。

These children represent some 9.1% of children who have disabilities nationally and who might be identified as gifted or academically advanced.

引用元:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02783193.2015.1008661

また以下の書籍によれば、(データ数は少ないものの)障害のある児童のうち2~5%がギフテッドの可能性があるとのことです。

しかし、小規模な事例研究によれば、2Eの推定割当は大きく変動するものの2-5%であると報告されています。

However, the estimated prevalence of 2e, which is widely variable and reported to 2-5%, stems primarily from small case studies

2E ギフテッドの特徴は?

2Eギフテッドもギフテッドであることに代わりはないので普通のギフテッドと似たような特徴を示す部分がありますが、2Eギフテッド特有の特徴もあります。アメリカのギフテッド支援団体の一つであるAcceleration Instituteの報告書には、2Eギフテッドの特徴に以下が挙げられています。

ギフテッドとしての認識を高める特徴

  • 高度な語彙の使用
  • 優れた分析能力
  • 高いレベルの創造性
  • 高度な問題解決スキル
  • 多様なアイデアや解決策を考える能力
  • 特定の適性(芸術的、音楽的、機械的
  • 多種多様な興味
  • 高い記憶力
  • タスクに熱中する
  • 空間把握能力

ギフテッドとしての識別を妨げる特徴

  • 特定の学問的スキルを習得できないことへの不満
  • 無力感
  • 全般的なモチベーションの欠如
  • 授業を妨害する行為
  • 完璧主義
  • 非常に感覚が鋭い
  • 課題を完了できない
  • 社会的スキルの欠如
  • リスニングスキルと集中力が低い
  • 記憶力と知覚能力を重視する課題が苦手
  • 低い自尊心
  • 非現実的な自己期待
  • 一部の同級生とコミュニケーションするスキルの欠如

2E の社会的および感情的な特徴

  • 劣等感
  • 目標を達成するための忍耐力がない
  • 全体的な自信の欠如
  • 答えはわかっているのにそれを正しく言うことも書くこともできず、その理由を理解するのに苦労し混乱する
  • 自分の能力が障害を隠してしまう
  • 障害によって才能が隠されている
  • 完璧主義(優れたパフォーマンスと成果を求める個人的な強い欲求を示す)
  • 感情の激しさ
  • 自分自身に対して非現実的な期待を抱く
  • 困難な仕事に対して強いフラストレーションを感じる傾向があり、それが全体的なモチベーションの欠如を引き起こすことがよくある
  • 学習性無力感
  • 自尊心の低さ

https://www.accelerationinstitute.org/Nation_Deceived/ND_v2.pdf#page=118

なおこれらは2Eギフテッドが示すことの多い特徴であって、これら全てに該当しなければ2Eではないというわけではありません。

どうやって2Eを見分けるのか?

2EであってもIQテストは見分けるための手段の一つとして有用*3ですが、単純なIQスコア(FSIQ)は障害のある人たちにとって不利になる可能性があるため、少なくともアメリカのギフテッド児支援団体NAGCではFSIQで見分けるのは推奨されていません*4。その代わりにGAI(IQスコアの特定の分野を抽出して算出した数値)など*5を使うことが推奨されています。

FSIQが130未満だった場合の判断の一つの方法として,GAI(General Ability Index: 一般能力指標)の値を見るというプロセスがあります(e.g., Silverman, 2009)。NAGC(National Association for Gifted Children: 全米小児ギフティッド協会)もこのGAI等の下位指標の値の参照を推奨しています。GAIの値を判定基準とした場合も,130以上であればとか120以上であればという境界ラインの考え方は,FSIQの場合と同様です。

知能検査とギフティッドの判定 - 論文・レポート

Instead, NAGC recommends that any one of the following WISC-V scores (subtests in parentheses), should be acceptable for use in the selection process for gifted programs if it falls within the confidence interval of the required score for admission:

  • the Verbal (Expanded Crystallized) Index (VECI) (SI, VC, IN and CO),
  • the Nonverbal Index (NVI) (BD, MR, CD, FW, VP, and PS),
  • the Expanded Fluid Index (EFI) (MR, FW, PC, and AR),
  • the General Ability Index (GAI) (BD, SI, MR, VC and FW),
  • the Full Scale IQ Score (FSIQ) (BD, SI, MR, DS, CD, VC, and FW), and/or
  • the Expanded General Ability Index (EGAI) (SI, VC, IN, CO, BD, MR, FW and AR).

https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED600122.pdf

IQ以外の手がかりとしては当人の行動が挙げられますが、ADHDASDはその見かけの行動がギフテッドと似ているところがあり、それが2Eを見分けることを難しくしています*6*7

ただ、ADHDの場合は多動性と衝動性が通常のギフテッドよりも深刻である可能性があり、その特性によって見分けることができるかもしれないと示唆されています。

Promising research from the International Journal of Mental Health and Addiction suggested that three particular hyperactive and impulsivity traits (difficulty regulating physical activity, difficulty regulating talkativeness, and speaking out of turn) may be more severe for these 2e children, and thus more useful for identifying ADHD in children who are gifted. 

Gifted, ADHD, or Both? - Davidson Institute

ASDの場合は非同期的な発達の傾向が非常に強く、できることとできないことの差が極端であるという特徴があり、それがヒントになる可能性があります。同年代の子どもと比べてある分野が非常に得意な一方、別の分野では非常に苦手だったりします。大人びた考え方をする割には子供っぽい行動が目立ったりする、などの場合があるそうです。

A third key to help differenciate a gifted person with Asperger's Disorder from a person with Asperger's Disorder alone is the level of asynchronous development.

ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から

終わりに

今回は2Eについて簡単にまとめてみました。日本ではそもそもギフテッドという概念があまり浸透していないのに加え、発達障害も一般にはあまり理解されているとは言い難い状況であり、このあたりの理解があいまいな人が多そうだったので信頼できる論文や支援機関などの文書を引用して記事にしてみました。

2Eは普通のギフテッドと比べてまだ研究途上なところがあり特にADHDASDとの違いについては専門家でも区別が難しいようで、これからの研究の発展に期待したいところです。

それでは今回はこのくらいで。

*1:不安障害やうつ病などを含める場合もあります

*2:引用元:Twice Exceptional: Definition, Characteristics & Identification

*3:"Comprehensive, individual intelligence tests can be invaluable when used as part of a multi-faceted approach to identify gifted and twice exceptional children. " https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED600122.pdf

*4:"The Full Scale score may be disadvantageous for such students and may impede efforts to ensure that gifted classrooms, programs, and schools are accessible to children with disabilities. The Full Scale score may be disadvantageous for such students and may impede efforts to ensure that gifted classrooms, programs, and schools are accessible to children with disabilities. " https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED600122.pdf

*5:https://www.pearsonassessments.com/content/dam/school/global/clinical/us/assets/wisc-v/wisc-v-interpretive-report.pdf

*6:"Because of the similarities outlined above, 2e children who are both gifted and have ADHD can be especially difficult to detect." Gifted, ADHD, or Both? - Davidson Institute

*7:"It can be difficult to differentiate between some gifted children and children with Asperger's Disorder."ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から